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オーディオ機器の販売に携わる私には、納得できない大きな疑問がありました。モデルチェンジを重ねる毎に製品の「性能=音質」が向上しているなら、何十年も前のオーディオ機器の音質がなぜ現在も通用するのだろう?という素朴な疑問です。パソコンや他の家電製品、映像関連製品などのここ数十年の品質改革と価格破壊はあきれるほどなのに、オーディオだけが進歩していないように思えたのです。
しかし、オーディオメーカーの技術者をはじめ、業界に携わる様々な人達の誰からも、この疑問の明確な回答は得られませんでした。そうしている間にも内外のオーディオ機器の品質は低下を続け、とてもメーカーが提示する「高額な価格に見合う性能」があるとは考えられなくなりました。「納得がいかないまま商品を販売することは出来ない」そういう思いから、「納得できないオーディオの販売をやめる」、あるいは「納得がいくオーディオ製品を作り出す」そのいずれかの選択を迫られる時がやってきました。
最初は、真空管アンプのキットを作るところから研究は始まりました。生まれて初めて作った真空管アンプに、多くの友人達のアドバイスや先人達の足跡を辿り、たった6万円の真空管アンプキットに様々な改良と部品の変更を加え続けると、一年足らずで海外有名メーカーの Mark Levinson(マークレビンソン)や FM Acoustics(エフエムアコースティクス)に匹敵するほどの音質に生まれ変わったのです。(後にこのアンプは「玲」という名前で発売され、好評を博しました。)
ここで、私の疑問は確信へと変わりました。「信用できるオーディオメーカーなどこの世に存在しない」と! 音を作ることを学ぶことはできました。しかし、製品を発売するには外観の設計や基盤の設計・・・そして何よりも莫大なイニシャルコストが必要となることなど、あらゆる高いハードルが立ちはだかっており、オリジナル製品の発売など、到底オーディオショップの片手間にできるような仕事ではありませんでした。
そこで一計を案じ、資質の優れた市販品にカスタマイズを施して、うんと音の良い改良モデル(カスタマイズモデル)なら発売が可能だと思いついたのです。最初に生まれたカスタマイズモデルは"CEC CH-5000R"に改良を加えた製品でした。 この製品は大きなヒットとなり、30台/月以上のペースで売れ始めたのです。その時に、CECの石渡部長(現CEC社長)より信じられないほど嬉しい申し出がありました。「CH-5000RのカスタマイズモデルをCECがメーカーの公式モデルとして生産しましょう」という申し入れです。 この時を境に、逸品館のカスタマイズモデルは単なるお店のオリジナルとしてではなく、正式な改良バージョン品となったのです。もちろんこのCECとの関係は現在でも続いており、また、2000年には marantz(マランツ)も同様に我々の技術を認め、カスタマイズ機の発売を認可してくれたのです。
最初は、カスタマイズモデルから始まったオリジナル製品の発売でした。このCECとの提携が順調に進んだある日、株式会社オーセンティックインターナショナルから「当社のA-10XXを逸品館向けのオーダーメイド仕様でお作りしましょう」という願ってもない申し出がありました。当時の封鎖的なオーディオ業界において、"オーディオメーカーが進んで自社の機器をモディファイし販売店のための音作りをする"など、考えられないほど革新的な企画でした。
カスタマイズモデルから1つ進歩したプロジェクトとして、株式会社オーセンティックインターナショナルの全面的な協力の元、アンプの共同開発をスタートし、両者の優れた技術が融合して生まれたアンプの音質は、遙かに高価な国内・海外の最高級セパレート・アンプの音質に勝るとも劣らない素晴らしいものに仕上がったのです。
A10XX/逸品館バージョンの販売は順調に進み、どうせやるなら中途半端ではなく、"日本人の手で世界に通用するオーディオブランドを生み出したい"という思いが日に日に強まっていきました。機会を得てオーセンティックの近藤社長に胸の内をうち明け、氏の快諾を得て100%オリジナルの設計となる"AIRBOW"は誕生したのです。
100%のオリジナル機器の開発となると、音質決定を開発初期の段階からきちんと行ってゆかなければなりません。私の考えるオーディオ機器に求められる音質とは、誰もが音楽を楽しめる"癖のない自然な音質"です。そして筐体に求めるのは"見飽きることのない端正なデザイン"と"人に優しい形状や重量"です。
しかし現行オーディオ機器のほとんどの開発は、特定のエンジニアや開発チームに回路設計から音質、筐体のデザインまでのすべてを一任し、絶対的な権限を与えがちなため、"作り手側の閉鎖的で独りよがりなものづくり"に陥ってしまうリスクが大きいのです。その中でも特に、"音決め=音作り"を音楽の専門家ではないエンジニアに委ねることは最も避けなければならない愚行の1つだと考えています。 万人に受け入れられる良い音のオーディオ機器を作ろうとするなら、音決めは音楽の専門家、すなわち"音楽家(指揮者)に委ねる"のが最も正しい方法のはずです。
それらの反省をふまえAIRBOWの回路設計では、電子回路技術のノウハウをオーディオ以外の業種からも柔軟に取り入れ、優れた方法は即座に採用し製品に反映、音決めに際しては複数の音楽家のご意見を採り入れるようにしています。
機器を買い替えても、家族の誰もが音質変化に気づかないような、あるいはその価値を家族から認められないようなオーディオ機器を私達は作りたくはないのです。"作る人"と"使う人"が断絶した状態にあるのではなく、"音楽を愛好する仲間"として、一緒に成長していけるのが理想の関係だと考えています。
"作り手"と"使い手"が信頼で結ばれるには、まず製品の価格が適正でなければいけません。加えて、1人で持ち運びが出来ないような重量やサイズの製品は失格です。子供からお年寄りまで誰もが簡単に扱うことが出来て、通常の使用では壊れるようなことがないよう、使いやすさ(ユーザービリティ)に重点を絞ってデザインされた"AIRBOW製品"が、今までのオーディオ製品とパッケージングが異なるのはそのためです。
私達の努力が実を結び、1999年12月の全国70店舗の主要オーディオ店・部門別売上集計金額で、スピーカーの部ではAIRBOW CLT-1が第1位を獲得、プリメインアンプ部門ではLITTLE PLANETが第2位に入るという快挙を得ました。現在のAIRBOWの年間売上額を合計すれば、すでに LUXMAN(ラックスマン)や Accuphase(アキュフェーズ)などの老舗オーディオブランドの1/20近くに達するほどの成長を成し遂げています。これほどの支持を得られたのは"純粋な音の良さ"のみならず、"バージョンアップ・サービスの実施"や"コンパクトで軽い設計"など、ユーザーの立場に寄り添った製品作りを、可能な限り妥協することなく貫いた結果だと感じています。
同時に、これほどの急成長を遂げることが出来たのも、一重に皆様の温かい支持があってのことと深く感謝しつつ、更によりよい製品開発を目指す努力を怠らないよう、今後も細心の注意を払いたいと気を引き締めていく所存です。
協力関連会社の方々以外にも、多くの友人が"AIRBOW"をバックアップしてくれていますが、彼らのほとんどは金銭的な報酬を受け取ってはいません。AIRBOWというプロジェクトを通じ、「一人でも多くの音楽ファンに心のこもった音楽を聴かせてくれるオーディオ機器を届けられるなら!」ーその夢の実現が彼らにとって唯一の報酬であり、同時に我々の願いなのです。プロジェクトに参加する仲間は"夢"と"情熱"で結ばれています。それは製品を購入してくださるお客様も、決して例外ではありません。
再生音楽の精度を確立させるためには、音の入り口から出口まで一貫したデザインを行いすべてを1つにまとめることが理想です。小さな箱から無限の広がりを持つ「生演奏のような音楽」が奏でられるならどれほど素晴らしいでしょう? "Singing Box(シンギング・ボックス)"ー歌う箱 の製作。それが"AIRBOW"の目指す最終目的です。
偏った音や音楽は心の成長のバランスを崩してしまいます。多感な成長期の心と文化の健全な発展を助けるべく、私達は"コンピューターゲーム機"と同等の数の"Singing Box"を販売することを目標にしたいと考えています。 そんな大それたことを仮に出来なくとも、このプロジェクトを通じて世界の音楽文化に貢献できれば最高に幸せです。そのためにもより一層の研究を惜しまず、良質な音とよい音楽を伝える努力を続けて行きたいと思います。良い音楽が、それを求める人たちに届くことが一番大切なことなのです。